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映画館の入場料金が1800円である意外な理由と、その時代背景

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映画館の入場料金、1800円は高いか安いか。

僕も子供のころはときどき映画館に行っていたけれども、最近はまったくいかない。それは100円でレンタルしてきたDVDを部屋で観るほうが安上がりであるし、なにより気楽であるというのがいちばんの理由である。とくに映画館では上映中にトイレに行きたくなってしまった場合、最悪である。いや今回はトイレのことは置いておくとして、金額の面に関していえば、ポップコーンやドリンクもなかなかに高額である。1800円の入場料金に500円のポップコーンと300円のドリンクを買えば、なんとお値段はジャパネット高田も驚きの2600円である。それでも映画が満足のいく面白さならば安いと感じるかもしれないし、5000円払ってでも見たい映画だってきっとあるはずだ。しかしながら、その満足度には当然、個人差があって、1800円払って観た映画がハズレである可能性もあるのである。

 

あるいはレディースデイみたいなものをつくるくらいなら、毎日1000円でいいんじゃいのか? むしろ値下げしたほうが客も増えて売り上げも伸びるんじゃないのか、という意見もあるだろうけれども、これについて映画関係者はこう答えるらしい。「それで値下げ前より観客が来なかったらどうする? 一度値下げしたら、次に値上げするとき、反発が大きい」。

 

入場料金が1800円になった理由、2つ

ざっくりまとまるならば、

1.「テレビの普及によって映画館が廃れたから」

2.「映画という商品の特殊な流体のため」

 

お客は減り続けるのに売り上げは伸び続けるマジック

まず映画館の料金が上がりはじめたのは、テレビが普及しはじめた1960年前後あたりからである。1963年の映画館入場者数は歴代最低を記録した。しかし入場者数が歴代最低であった1963年の売り上げはなぜか歴代最高を記録するという不思議な現象が起きる。お客は減ったのに、売り上げは伸びたのである。それはなぜか、タネを明かせば単純なもので、入場料が「200円」から「300」に上昇したからなのだ。そしてしばらくこの構図は繰り返される。お客が減る、値上げする、売り上げが伸びる、この帳尻合わせを何度も何度も繰り返した結果、気付けば1800円である。つまり「卵が先か鶏が先か」式に言ってみれば、入場料が1800円だからお客が来ないのではなくて、お客が来ないから入場料が1800円になったというのが歴史的には正しい見方であるようだ。

 

他には1989年には消費税3パーセントに便乗して値上げがおこなわれたこともある。当時1500円だった入場料金を、普通ならば1500円+45円(消費税3%)=1545円となるはずなのに、なぜか1600円になったのだ。入場料金の年代別のグラフをつくったので載せておく。

 

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映画という商品の特殊な流通体系

まず映画には制作委員会というものがあって、これは「幹事会社」「配給会社」「興行会社」によって結成されている。委員会の中心としての幹事会社、映画を卸す配給会社、映画を上映する興行会社。まずこのことを頭に入れていてほしい。

 

たとえば通常のビジネスの場合、商品の卸価格は常に一定である。ひとつ100円の卸価格で店が仕入れた商品は、原則的にそれ以上の価格で店頭にならべられる。そして150円で商品が売れれば50円の儲け、80円で売れれば20円の赤字となるのは想像できるだろう。しかし映画館の場合は違うのである。

 

映画という商品には「歩率」というものが定められている。全国公開されるロードショー作品、新作の場合、最初の2週間は配給会社70%、3週目から5周目までは60%、6週目以降は50%と、週を重ねるごとに映画館サイドの取り分が多くなるケースが多い。このパーセンテージが歩率である。

 

例えば八百屋でこの「歩率」を考えてみる。トマトを農家から仕入れるとする、1日目の歩率を70%として考えるなら、この新鮮なトマトひとつを100円で売ったとしてひとつ売れるたびに八百屋は30円儲かり、農家は70円儲かる。2日目、昨日と比べると鮮度の落ちたトマトを歩率60%で売っていく。ひとつ売れると八百屋は40円儲かり、農家は60円儲かる。しかしながら、鮮度の問題でおそらくきのうよりは売れないだろう。そして3日目、歩率50%。ひとつ売れると八百屋は50円儲かり、農家も50円儲かる。でもトマトの鮮度はさらに落ちている。――と、これが映画という商品の料金体系である。だから八百屋がたくさんトマトを売るために値下げをすると、八百屋の取り分にも影響が出てしまうので八百屋だけの判断で容易に値下げはできないのである。映画という商品の料金体系と、映画館が安易に入場料の値下げを出来ない理由をすこしは判ってもらえただろうか。

 

映画館が入場料金を下げると、配給会社や幹事会社にも影響がでる。そうすると、新しい映画をつくるための予算が生まれない。低予算で映画をつくるしかなくなる。低予算で作られた映画の出来はきっとあまりよくないだろう。そんな映画がお客を集められるだろうか、いやきっと無理だろう。そして利益はでず、今度はさらに低予算の映画をつくらなければならなくなる。悪循環。こういう映画という商品の流通の仕組みを理解している映画関係者ほど、こう言うらしい。「映画館の入場料金の1800円というのはぜんぜん安いよ」と。

 

1800円相当の映画館のサービス

それでも最近は4Dやら個室映画館なんかも出てきていて、映画館側のサービスも向上しているようである。そのうち「一万円払ってでも映画はやっぱり映画館で観たい」と思えるようなサービス満点の映画館や、斬新な映画館や、めちゃくちゃオシャレな映画館が生まれるかもしれない。映画制作会社が素晴らしい映画をつくったのなら、それを提供するシアターの環境も充実しているべきだろう。従来の、大学の講義室と大して変わらないようなシアターではやはり味気ない。それでは部屋でDVDを再生して映画を観るのとなにも変わらない。「HuluやNetflixで十分なんじゃないのか」って感じだ。だからこそ映画館でしかできない演出、サービス、特典、そういうものが完備された映画館ができない限り、映画館離れは今後も続いて、そうなればさらに入場料があがっていくなんていうことになるんじゃないのかっていう話しだ。

 

これはあくまでも簡単にまとめただけの表面的な原因でしかないので、詳しいことはぜひ斉藤守彦氏の『映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか? 』を読んで確認して欲しい。

 

映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?

映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?

 

 

参考文献:映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか? 』斉藤守彦